感情は安定させるものではなく受け入れるもの ~感情に紐づく行動をコントロールする~
[初めに]
「イライラすると、つい他人に怒ってしまう」
「不安になると、やけ酒をしてしまう」
「ドキドキすると、体が固まってしまう」
このように人は悲しみ、不安などの感情を抱くと、それぞれの感情に対する特定の行動を起こしやすいのです。
この特定の行動が時には状況を悪化させたり、あとになって後悔を感じさせたりするため、さらに悩み苦しむことがあります。
そのため、人は不快な感情を追い払ったり、避けたり、コントロールしたりしますが、失敗することが多いはずです。
「感情」はコントロールすることはできないのです。
しかし、感情に紐づく「行動」はコントロールすることができるのです。
今回は「感情」に対する認識について紹介していきます。
テーマは以下の通りです。
[テーマ]
・感情はコントロールできない
・誰もが行動をコントロールしたことがある
・感情に「いい」「悪い」はない
・よく考えてしまう囁き
[感情はコントロールできない]
結論から言うと、感情をコントロールすることはできません。
それは、感情が天気のように不規則に移り変わるものだからです。
感情を認識するまでの処理の流れを加担に説明すると、以下のとおりです。
- 外部や内部からの重大な出来事に脳が反応する
- 脳が「この出来事は害があるか、それともメリットがあるか」を判断する
- うれしい、悲しい、不安などの感情になる
2. で脳が害のある出来事だと判断した際は、「闘争・逃走反応(戦うか逃げるか反応)」を起こします。
これは、人間に備えられた危険を察知するセンサーのようなものです。
太古の昔、野生の動物に出会った際に、闘うか、逃げるかの準備をするために人間に備えられた機能なのです。
しかし、現在はそのような危険に合うことはないです。
それなのに私たちは、威圧的な上司や、プレゼンテーション前の緊張や、将来に対する漠然とした不安などに対して危険を察知してしまうのです。
恐怖、怒り、嫌悪感などの不快な感情が生まれるのは、闘争・逃走反応が起こった時です。反対に脳がメリットであると判断した出来事に対しては、うれしい、楽しいなどの感情が生まれます。
闘争・逃走反応は人間が生き延びるための機能として備わっているため、そこから生まれる不快な感情をコントロールすることはできないのです。
しかし、不快な感情を抱いても、その先の行動をコントロールすることはできます。
[誰もが行動をコントロールしたことがある]
例えば
- 「イライラした時、誰かを叱りつけたくなる衝動に駆られる」
- 「不安な時はその場から逃げ出したくなる」
- 「遅刻しそうで焦っているときは車のスピードを上げる」
上記の通り、不快な感情は特定の行動に関連する傾向があります。
しかし、この行動の傾向に対して、誰もがコントロールすることができた経験があると思います。
もう一度、上の例を使用すると、
- 「イライラした時、誰かをしかりつけたくなる衝動に駆られたが、落ち着いて笑顔で対応した。」
- 「不安な時はその場から逃げ出したくなったが、頑張って作業を続けた。」
- 「遅刻しそうで焦っているときは、車のスピードを上げたくなるが、事故を起こす可能性があるため、ゆっくりと安全運転をした」
このように人は感情の影響を受けても行動をコントロールすることができるのです。
しかし、強い感情の場合は、コントロールが難しくなります。
それは、不快な感情=「悪いもの」として認識していることに理由があります。
[感情に「良い」「悪い」はない]
「感情がコントロールできないなら、私たちは悲しみ、不安などの不快な感情にずっと苦しまなければいけないのか。」
そう思われるかもしれませんが、そもそも感情に「良い感情」、「悪い感情」などはないのです。
確かに、ネガティブな感情は不快のため、好んで味わいたいと思う人はいないはずです。
しかし私たちは「不安」や「恐怖」を不快に感じていながらも、お金を払ってジェットコースターに乗ったり、ホラー映画を見に行ったりして不快な感情を求める時があります。
つまり、不快な感情に苦しむ理由は、それらを「悪い」感情だと思ってしまうからです。
私たちは嬉しい、楽しいなどの感情を「ポジティブ」、悲しみ、不安、恐怖などの感情を「ネガティブ」と区別することが多いですが、感情を「良い」「悪い」と判断することにあまり意味はないのです。
なぜなら感情は天気のように、時には心地よさが、時には不快さが不規則に巡ってくるものだからです。不快だからと言って、それらの感情に意識を向けて追い払おうとする必要はないのです。
[よく考えてしまう囁き]
不快な感情を増幅させてしまう「頭の中の囁き」を5つ紹介します。
この5つの「頭の中の囁き」に共通して言えることは、「この囁きは自分にとってプラスにならない」ということです。
この囁きに意識を集中させてしまうと不快な感情をさらに増幅させ、自身の時間と労力は奪われてしまいます。
- 「どうしてこんな気分なのだろう?」
「どうして悪い気分であるかの問題を見るけることができれば、気分を良くすることができるだろう」と考えて、この考えを持つ人は多いかもしれません。
しかし、この考えは、人生が問題ばかりであるという幻想を作り出すため、気分を悪化させてしまいます。
そして、問題を見つけるために多くの時間を不快な思考に費やしてしまいます。
重要なことは、問題を見つけることではなく、不快な感情に対するあなたの反応なのです。
- 「こんなことになるなんて、自分が一体何をしたんだっていうのだ?」
こちらも気分を悪化させるだけの囁きになります。自分の過去にしてしまった「悪い」ことを蒸し返し、「自分は無力だ」、「役立たず」、「悪い」といった考えを持ってしまうのです。
- 「なぜ私はこうなんだ?」
この囁きは自分の人生をくまなく振り返えさせ、今の状況になってしまった原因を探そうとします。これは、怒り、恨み、絶望の感情を掻き立てます。
- 「私にはどうすることもできない」
これは「自分には無理だ」「対処できない」「耐えられない」という考えをもたらします。心が「お前はこの状況を乗り越えるには弱すぎる」と囁いてくるのです。
しかし、この囁きはあなたにとってメリットのある内容でしょうか。
- 「こんな風に感じなければいいのに、感じるべきではない」
これは、現実と理想のギャップを直感したときに、自分が「本当の自分はこんなもんじゃない」と否定する考えです。
時には、「こうだったらいいのに、、、」という妄想につながります。人の心は、この妄想という気晴らしが大好きです。「もっと自信が持てればいいのに」、「不安がなくなればいいのに」、「別の感じ方ができれば人生はもっと違うものになるのに」と、長い時間をかけて妄想をしてしまうのです。
この妄想が現実の人生をよりよくするために役立つのでしょうか。
[最後に]
例えば、実際に病気になってしまい、体が思うように動かなくなってしまったという「事実」に対して不安な感情が湧いてきたとします。
そうしたら「もう働いてお金を稼ぐことができない」、「この病気が治ることはない」などの囁きに対してはどうすればいいのか?
その内容は確かに「事実」かもしれません。
しかし、その事実を何回頭の中で繰り返したとしても、自分の現状が変わることはありません。だからその囁きに注意を向ける必要はないのです。
つまり感情から発生した心の囁きが「自分にとって、それがプラスになる考えなのかどうか?」という基準で注意を向けるべきかを判断することです。
では、注意を向ける必要のない頭の中の囁きやイメージに対して、どのようにやり過ごせばいいのかについては以下の記事で紹介していますので、こちらも見ていただければと思います。
・頭の中の囁きを意識しないようにする方法「脱ヒュージョン」
・嫌なイメージの正しい対処法
[本の紹介]
タイトル:幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない
著者:ラス・ハリス
出版社:筑摩書房
幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門 (単行本)