異なるチームの団結力を築くためには
チームで何かをする際の団結力は、組織において大きなメリットをもたらします。
団結力によって自分の利益のためではなく、チーム全体の利益のために行動するようになります。例えば仕事では、自分が持っている知識を抱え込まず知識を共有し協力することで、業務を進めるため生産性が上がります。
しかし、団結力は強ければいいものではありません。強すぎる団結力は、異なるチーム間との対立につながります。今回は、異なるチームはどのように対立していくのか、又はどのように信頼を築いていくのかについて話していこうと思います。
~参考書籍~
団結力が強すぎるチームのデメリット
チーム内部の団結力が極端にならないようにするべきです。
理由は、エスノセントリズムという「自分の属しているチームが中心にいるという認識」を持ってしまい、他のチームと敵対心を抱いてしまうからです。
例えば、他のチームと全体の予算などの資源を競い合うような状況では、チーム内部の団結力は高い傾向があるということです。(これを内集団/外集団理論といいます。)
団結力に単純接触効果は有効か?
では、このようなチーム間の対立を回復するためにどのような対策が取れるのでしょうか。まず、単純接触効果について考えていきます。
単純接触効果とは、合う回数が多い相手に対して親近感を湧く効果のことです。
単純接触効果の例を2つ挙げます。
例1
あなたは鏡に映る自分の顔と、写真の自分の顔を比べると鏡に映る自分の顔のほうがいいと思うはずです。
理由は鏡に映る自分は毎日何度も見ているから、好感を持っているのです。
反対にあなたを良く知る友人は、写真のあなたに好感を持っているはずです。
例2
ある実験の紹介です。
あるカメラのバナー広告を参加者が読む記事の上部に
- 5回表示させた場合
- 20回表示させた場合
- 全く表示させなかった場合
でどんな違いがあるかを調べました。
その結果、広告が出ていた時間はごく短い時間だったにも関わらず、表示回数が多いほどカメラに対して好印象を持ったとのことです。
しかし、単純接触効果を使えば、誰でも仲良くなれるというのも言いきれません。
もし単純接触効果で仲良くなれるのであれば、毎日顔を合わせる家庭のパートナー、職場の同僚などに対して会うたびに好感を持つはずです。
あなたは、嫌い人と毎日過ごしていたら好きになったりするでしょうか?
おそらく、一緒にいるだけで不快さを感じ、より一層嫌悪感を抱いてしまうと思います。その人と接触した際に不快な経験を伴うと、逆効果になってしまうということです。
異なるチームと団結力を強くする方法とは
では、日ごろ接触回数の多い人やチームに対し、敵意を抱かず協力し合える関係を築くためにはどうすればいいのか?そのヒントを示してくれた実験を紹介します。
そのヒントとは、「競争ではなく、協力が中心となる取り組み(協同作業)ならいい関係を築ける」ということです。
実験内容
社会学者のムザファー・シェリフとその共同研究者たちが行った、少年たちのサマーキャンプでの「対立」が生まれる過程を調査した内容となります。
最初に、少年たちを2つのグループに分けてライバル意識を芽生えさせました。そして、対立意識を増幅させるために実験者は、意図的に両グループを競い合わせるような活動を導入しました。(例えば、宝探しや綱引きなどの運動競技など)
その結果、競技中には「ずる」「コソ泥」「卑怯者」という野次が飛ぶだけでなく、競技外の食堂での食事中でも乱闘が常習的に行われるようになったそうです。
つまり、
- グループに分けて仲間意識を持たせる
- 両グループが一緒の時間を作る
- 競争心を起こすように煽り立てる
これだけで敵対心が高まったということです。
この状況になった後は、ピクニックや映画などの競い合わせる要素のないイベントでも喧嘩や野次のオンパレードだったそうです。
ここで、研究者たちは活動の方針を変え、「両グループが競争すると全員の利益を損ね、協力するとお互いの利益となる」状況を用意しました。
例えば、町へ食糧を買いに行くためのトラックがトラブルでエンジンかからない状況を作り、全員でトラックが動き出すまで押したり引いたりしました。
別の例では、離れた場所にあるタンクからパイプで引かれている水道をわざと止めました。水が使えないことを知った少年たちは全員で問題を見つけて、その日のうちに水道を修理したのです。
このような共同作業を続けるうちに、2つのグループで挑発するような発言がなくなり、落ち着いて食堂で食事をするようになったそうです。(共同作業を実施してすぐに変わったわけではありませんが、著しい変化が起こったのは事実です。)
この変化の原因は、両グループに共通の目標を与えたことでした。
目標を達成するためには協力することが必要だと認識され、互いの協力によって成功が得られたことを実感すると、協力した相手に敵意を抱き続けることは難しくなったのです。
この実験は子供を対象としたものですが、後の研究で大学生の集団や企業組織に対しても類似の実験が行われ。同じような結果が出たそうです。
最後に
参考書籍には、この協同作業を学校の「生徒の対立」という問題と照らし合わせていました。
既存の教育では、先生が質問した問題を生徒が手を挙げて答えさせるやり方が多いと思います。しかし、それは生徒たちに対立の意識が芽生えるのを助長してしまいます。
問題の答えがわかる頭のいい生徒は落ちこぼれの生徒を見下し、落ちこぼれの生徒は先生に褒められる頭のいい生徒に嫉妬して関係の溝は深まっていきます。
これは学校だけに限らず、職場のチームにも当てはまることです。
自分のチームの利益だけに注目して競い合う環境や風習だと、チーム間が対立する関係になりやすいのです。
しかしチーム間で協力し合う活動と業務形態を用意することができれば、チーム同士の関係はよくなり組織全体の生産性は上がるはずです。
なお、先ほど紹介した協同学習の研究は、
どの程度の割合で効果が出てくるのか、
効果が出る組織の規模はどのくらいか、
メンバーの年齢はどのくらいなのか、
などまでは明らかにできてはいないとのことです。
しかし、少なくとも協同学習を取り入れることによるメリットに希望が持てます。
また、競争心を起こさせることも、行動を促すメリットがあるため、「競争」と「協力」のバランスを取りつつ、改善を行うのがベストだということです。