イライラちゃんとドキドキのブログ

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私たちはスタバのコーヒーの値段にいつから慣れてしまったのか ~予想どおりに不合理 その2~

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[はじめに]

 皆さんは初めてスタバに行った時のことは覚えていますか?

 いつも一杯100円くらいのコーヒーを飲んでいたあなたは、スタバのメニューを見てびっくりしたはずです。

「うわっ高!」と。

 しかし、スタバに何度も足を運ぶようになったあなたは、今も値段が高いと思っていますか?思っていないはずです。そして、他のおしゃれなカフェの高いコーヒーを見ても同じように高いと思わないはずです。反対に、昔飲んでいた一杯100円のコーヒーは「安いコーヒー」と思っていることでしょう。

 

あなたの「コーヒー」の値段の基準は

昔:100円より上なら「高い」、100円より下なら「安い」

 だったのに、

今:300円より上なら「高い」、300円より下なら「安い」

 に代わったのです。

 

 このように値段の基準が刷り込まれることを「アンカリング」といいます。例えば牛乳1パック、キャベツ1玉、Tシャツ1枚、自分が住む地域の月の家賃など、これらの値段が大体いくらか想像してみてください。

 もし初めてそれらの商品の値段を知った日から頭の中に刷り込まれ、それ以降はその時の値段を基準に「高い」、「安い」を判断していたら、「アンカリング」の影響は恐ろしいと思いませんか?なぜなら、あなたへの刷り込みさえ成功してしまえば、あなたはスタバのコーヒーのように、その商品の値段が通常だと思って購入してしまうからです。

 

 今回はこの「アンカリング」について紹介します。

[目次]

・アンカリングの効果を証明した実験

・アンカリングがもたらす影響の例

 

 

[アンカリングの効果を証明した実験]

 アンカリングのアンカーとは船の碇(いかり)を指す言葉です。碇を海底に落とすと船はそこから動かなくなることを例えて、相手の提示した数値が基準となり、判断の身動きが取れなくなってしまう状態をアンカリングと言います。このアンカリングの効果を証明した実験内容を以下に記載します。

 

~実験内容~

 55人の学生を対象とした実験で、学生たちにオークションを実施してもらいました。

最初に教授がオークションの品物6品(ワインやPCの周辺機器など)の紹介をしました。

そして、配られた用紙に品物6品それぞれに対して以下の内容を紙に記載してもらいました。

  • 自分の社会保障番号の下二桁を記載
  • その下二桁を金額として、6品それぞれをこの金額で購入してもいいかを「Yes」か「No」で答える(例えば下二桁が23番なら、23ドル)
  • それぞれの品物に支払ってもいい最高金額を記載 

 この結果、社会保障番号の下二桁の数値が小さい学生の最高金額は低く、下二桁の数値が大きい学生の最高金額は高い傾向となりました。(下二桁が下位20%の学生よりも上位20%の学生のほうが2~3倍以上高い金額を記載した結果となった。)そして、学生に社会保障番号の下二桁が最高金額に影響を与えたかという質問をしたところ、学生たちは「ありえない」と回答したそうです。

 この結果から、学生たちは無意識に自身の社会保障番号を基準として品物に支払ってもいいと思う最高金額を決めていたのです。社会保障番号というオークションとは関係のない数字を意識させるだけで、その番号が船の碇(アンカー)となって学生たちは判断の身動きが取れなくなったことが証明されました。

 

 

[アンカリングがもたらす影響の例]

 アンカリングがもたらす影響は以下の2つのようなケースでも起こりうるのです。

 

①住宅購入

 初めての引っ越しで別の地域の物件を購入する際は、今までの地域の相場と同じくらいの金額しか支払わないことを証明した研究があるようです。例え、生活に不便になったとしても、家が小さくなったとしても出費額を増やしたりはしないというのです。

 これは、物価の高い地域に住んでいた人が、安い地域に引っ越した場合にも、同様のことが言えます。引っ越した人は、高い地域の相場くらいの金額の物件を選ぶのです。

 

②交渉

 契約を結んだり、価格を決めたりする交渉の世界でもアンカリングの技術は使用されます。

 例えば価格交渉の際に「10%値引きしてもらえないでしょうか?」という要求をされたとします。本来であれば受け手は「値引き」という要求に対して「Yes」か「No」という選択肢を持っています。しかし、「5%の値引きなら大丈夫そうだな」「12%の値引きを追加要求されたらどうしよう」などの「10%」という数値を基準にした思考をしてしまう可能性があるのです。その結果、最初から「5%の値引きなら大丈夫です。」などという譲歩をしてしまうことがあります。

 冷静な判断ができる状況であれば値引きの要求を拒むか、値引きしてほしい理由を質問するといった対応をとるのが普通だと思います。しかし交渉中は、相手のゆさぶりや、相手と合意をとらなければという焦りによって冷静さを欠くことが多いです。その中で相手がアンカリングを仕掛けてくると、譲歩してしまう可能性が高くなってしまうのです。

 

 

[最後に]

 まとめると、アンカリングは最初に刷り込まれた決断を基準(アンカー)として、その後の決断に影響を与えます。しかし、この記事の最初に紹介したコーヒーの例では、1杯100円のコーヒーが最初のアンカーなのに、どうしてスターバックスの高いコーヒーにアンカーが移ってしまったのでしょうか。

 その理由はスターバックスが人気店になった理由から分かります。アンカリングは似たような経験に影響を及ぼす特性を持つため、スターバックスは、ほかの喫茶店との差別化を図ったのです。お店から漂う高級コーヒー豆の香り、見たこともない綺麗なスイーツの数々、初めて名前を聞くような飲み物など、他の喫茶店では味わえない商品やお店の雰囲気を作り出たのです。

 そのため、よくあるコーヒーショップの経験ではなく、「スターバックス」という新しい経験をお客に味合わせることで、「ただのコーヒー」のアンカーを無視して「スターバックスのコーヒー」として最初のアンカーとなったのです。

 

[本の紹介]

タイトル:予想どおりに不合理

著者:ダン・アリエリー

出版社:早川書房

 


予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)