イライラちゃんとドキドキのブログ

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世界の食糧問題に希望を与えるハエ ~株式会社MUSCA~

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[はじめに]

食糧不足は世界が抱えている大きな問題の1つです。

皆さんが口にしている牛、豚、鶏、魚などを育てるための餌が不足していることが原因であり、今後は人口増加に伴いさらに深刻化していきます。

この問題を「ハエ」の力で解決できる時代が訪れようとしています。

 

現在では、食糧不足の問題を解決する策として、様々な企業が「虫」を使った画期的な事業を展開しています。

中でも「昆虫食」は代表的な例ですが、今回紹介する株式会社MUSCAはそれとは異なる面白い事業を行っています。

 

それは、ゴミを100%リサイクルして肥料や飼料を生み出す事業です。

この事業を実現させるための主役が「ハエ」です。

 

 

[テーマ]

・世界では「餌」が不足している

・ゴミを高品質な肥料・飼料に変える「幼虫プラント」とは

MUSCAシステムを実現させる唯一無二の「ハエ」とは

 

 

[世界では「餌」が不足している]

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皆さんが口にしている肉、魚を育てるためには何が必要でしょうか。

何より必要なものは餌(=飼料)です。

この飼料の原材料は天然資源ですが、収穫量の不足により必要な量を生産できない事態となっております。

 

例えば以下の記事は魚の養殖に必要な餌(魚粉)が不足していることを取り上げています。

(魚粉の課題に関する記事)

www.mitsui.com

 

この記事では、不足している飼料の代替品として、大豆・トウモロコシなどから生成する植物性原料と、食肉処理の過程で得られる内臓・皮・骨などから生成する動物性原料があることを紹介しています。

 

これらを飼料として使用するためには、栄養価、嗜好性、安全性、価格、供給量などの基準を満たす必要があります。

しかし、これらの原料は価格を安く生成できても、安全面や栄養価などで課題があり、更なる対策の検討が必要です。

 

よって今後に期待できる代替飼料として、昆虫から生成する飼料の可能性に注目していることも記載されています。

 

株式会社MUSCAはまさに昆虫を使って飼料を生成する仕組みを作ったのです。

 

 

[ゴミを高品質な肥料・飼料に変える「幼虫プラント」とは]

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株式会社MUSCAの事業は、

「家畜の糞尿や生ごみなどの有機廃棄物をハエの力によって、植物を育てるための肥料と、家畜や養魚を育てるための飼料に100%リサイクルする」

ことです。

この仕組みを「MUSCAシステム」といいます。

 

MUSCAシステムには専用の施設を建設する必要があります。

(この施設を「幼虫プラント」と言います。)

 

有機廃棄物を肥料・飼料に変えるステップは以下の通りです。

①「幼虫プラント」に有機廃棄物を運んでくる

有機廃棄物に「ハエ」の卵を振りかける 

 ※後程説明しますが、普通の「ハエ」ではありません

③卵から孵化した幼虫の体液から、消化酵素を出して有機廃棄物を分解する 

 →これが肥料になります。

④廃棄物を食べて成長した幼虫は、サナギになるため有機廃棄物の中から外に出ていく

⑤外に出た幼虫を集めて、幼虫を乾燥させる 

 →この幼虫が飼料になります。

 

①~⑥のステップはおよそ一週間で実施できます。

通常の糞尿処理施設では2~3か月かかるといわれているので、大きな時間短縮になります。

また、通常の糞尿処理施設の懸念点として、分解する際に発生する悪臭や地下水の汚染などの問題点は、MUSCAシステムにはありません。

環境面に配慮された仕組みとなっています。

 

それ以外にも、MUSCAシステムで生成された肥料は宮崎大学との共同研究で病原菌抑制効果や、農作物の成長促進、収穫量増加が実証されています。

飼料のほうは愛媛大学との共同研究で耐病性付与効果、誘因効果、増体効果があります。

 

増体効果の証明として、通常の飼料とMUSCAの飼料をそれぞれ食べた魚の大きさの違いを表した写真が以下リンクの記事にあります。

栄養の違いがはっきりわかります。

prtimes.jp

 

飼料に至っては人が食べても大丈夫なくらい安全であることを検証済みだそうです。

また、嗜好性についてですが、以下リンクの動画を見てください。

https://twitter.com/i/status/1191858038103109632

MUSCAの飼料に動物が群がっていることがわかり、嗜好性も優れているようです。

 

 

ビジネスモデルとしては、以下の流れとなります。

  1. 顧客の依頼によって上記工程を自動化して肥料や飼料を生成する「幼虫プラント」を建設する (顧客は「幼虫プラント」のオーナーになります。)
  2. 生成した肥料や飼料を株式会社MUSCAに売ることで顧客は利益を得る
  3. 株式会社MUSCAは顧客から買い取った肥料や飼料を商社や農家に売ることで利益を得る

 

この「幼虫プラント」の建設費用や、肥料や飼料がいくらで売られるのかはわかりませんでしたが、プラントの施設は従来のベルトコンベアや、ロボットアーム、幼虫を乾燥させるための乾燥機、肥料を生成するためのペレット製造機などによって肥料や飼料を自動加工できるため、それほど建設費用は高くはなさそうです。

 

また、通常の処理施設よりも早く肥料や飼料を生成できることにより、生産量が限られることもなさそうです。

 

 

 

[MUSCAシステムを実現させる唯一無二の「ハエ」とは]

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上記したMUSCAシステムを実現させているハエは普通のハエではありません。

このハエの種類は「イエバエ」といい、世界各地に生息し家屋内によく出現するハエです。

しかし、株式会社MUSCAの「イエバエ」は約50年をかけて1,200世代もの交配をした特殊なハエなのです。

 

MUSCAシステムを実現させるためにMUSCAのイエバエが必要とするスペックは以下の通りです。

  • 短期間で大きく育つ成長力
  • 卵をたくさん産む繁殖力
  • 孵化率の高さ
  • 様々な環境下でも生き抜くことができるストレスの強さ

これらのスペックを全て持ち合わせたハエなのです。

 

MUSCAのイエバエは、もともとは旧ソ連が宇宙開発プロジェクトのために研究していたイエバエとなります。

長期間の宇宙滞在に備えて、宇宙飛行士の排泄物にイエバエの卵を撒いて肥料を作り、幼虫を宇宙食にする計画だったそうです。

この技術を引き継いで日本で選別交配を続けたことにより、現在のスペックを持つイエバエが誕生したのです。

 

このハエが盗まれたら、ほかの企業も同様の事業を展開し、競合してしまう可能性があるのではないかと思われますが、その心配はないそうです。

Muscaのハエと通常のハエを交配させても高いスペックは維持できないのです。

この交配のノウハウはMUSCA独自のものであり、真似することができない技術となっています。

 

また、MUSCAのイエバエは全国各地の施設に保管されているため、災害などによって貴重なハエの交配が途絶えてしまうという危険もありません。

 

 

エバエから作られる飼料は、先ほど紹介した飼料を使用するための基準である以下の

  • 供給量
  • 栄養価
  • 安全性
  • 嗜好性
  • 価格

を満たしているのではないかと思います。

 

 

[最後に]

参考にしたインタビュー記事の中で株式会社MUSCA代表取締役会長の串間さんは、

この事業を「0.5次産業」と呼んでいるそうです。

 産業にはそれぞれ、

1次産業(農業生産)  2次産業(加工事業)  3次産業(流通・販売事業)

とありますが作物を育てるための肥料や飼料を生成することは、1次産業の前の段階となる市場であるため、「0.5次産業」というわけです。

 

最近ではそれらの産業を複合化させた6次産業(1×2×3次=6)も注目されています。

6次産業とは例えば、育てた作物を使って加工品の販売をしたり、農家レストランを経営したりです。ここに0.5次産業も加わることで、それぞれの産業と組み合わされば新たなビジネス展開も期待できます。

 

また、株式会社MUSCAをはじめ、農業をテーマに事業展開をする会社からの情報発信も増えてきており都会の若い人たちも関心を持つようになったと思います。

 

過去の記事で「アーバン・ファーマーズ・クラブ」というNPO法人の団体について紹介したことがありました。

彼らは恵比寿などの都会のビルの屋上で農作物を育てるという面白い取り組みをしています。都会に暮らす人たちに気軽に農業の面白さを体験してもらう目的で活動しているのです。

 

もし、彼らの畑を使ってMUSCAの肥料でおいしい作物を育てることができれば、農業に触れる機会の少ない都会の人たちに、よりMUSCAの取り組みや農業の魅力を知ってもらえるのではないかと思ったりしています。

 

今回紹介したMUSCAシステムやMUSCAのイエバエについてわかりやすく解説している動画があるので興味を持った方はご覧いただければと思います。

www.youtube.com

 

おわり。

 

[参照記事]

2019年、ハエ・テクノロジー企業のムスカがいよいよ孵化する《前編》 | LoveTechMedia - ラブテックメディア

昆虫×テクノロジーで食糧危機の解消に挑戦するムスカ《中編》 | LoveTechMedia - ラブテックメディア

6次産業化とは?メリット・デメリットや主な事例 | ジブン農業